趣味の写真とのんきなお喋り
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 以下は広く知られた真理だが、古典作品のパロディを楽しんでゐる人のかなりの部分は、実はもとの古典作品をろくに読んでゐないものである。いや、パロディだけでなく映画化、ドラマ化された場合でも事情は変らない。それが証拠に、「源氏物語」でも「戦争と平和」でも、それらを通読した人間に私は(日常生活で)会つたためしがない。

 だから、といふわけではないが、この「高慢と偏見とゾンビ」(Pride and Prejudice and Zombies, 2009)といふ奇妙奇天烈かつ痛快無比な小説を立ち読みしていきなり笑へる人間は少ないのではないかと私は案じてゐる。といふ私の懸念からも分る通り、この「とゾンビ」はジェイン・オースティン(1775-1817)の草したあの有名な一文のパロディから始まる。しかしパロディだと分らないと、残念ながらあんまり笑へない(ただし詰まらないからではない。読み飛ばされてしまふからだ)。

 したがつて、「とゾンビ」の面白さ(破壊力たつぷりの笑ひの力)を味はふためにも、まづは新潮文庫の「自負と偏見」河出文庫の「高慢と偏見」を買つて、通読しておいた方がよからう(私は新潮文庫版を勧める。「高慢」を「自負」としたのは中野好夫訳のみ)。オリジナルは英文学史を代表する小説のひとつだ。小説好きならのめりこむことはあつても、飽きることはない(ジェイン・オースティンに退屈するなんて考へられない!)。

 とはいふものの、予習やお勉強の好きな人間がさうさうゐるとは思へないし、第一、予習しなければ分らんといふのであれば、この小説が本国アメリカでミリオンセラーになつた理由が説明出来ない。つまり、この新しいアイディアに満ちたロマンス・ゾンビ小説は、予復習無しに読んでも充分に面白い。

 「高慢と偏見とゾンビ」はジェイン・オースティンの名作「高慢と偏見」に、セス・グレアム=スミス(Seth Grahame-Smith)なる御仁がゾンビと戦ふ乙女たちといふ無茶苦茶なストーリーを嵌め込んでしまつた怪作。本篇にはジェイン・オースティンの文章のかなりの部分が残されてをり、ところどころにゾンビの襲来と撃退といふグレアム=スミスの文章が挟み込まれるといふ仕掛けになつてゐる。18世紀末ののどかな田園風景は一瞬にして狂気と殺戮の世界に変じ、そしてゾンビ撃退後は、何事もなかつたかのやうにあつけらかんと元の静けさを取り戻す。この仕掛けは秀逸である(かういふのをマッシュアップ小説といふさうだ。そんなジャンル、私は寡聞にして知らなんだ)。

 驚いたことに、この「高慢と偏見とゾンビ」はナタリー・ポートマンが映画化権を買ひ取つて、彼女の主演で映画化されるらしい。日本で公開されれば、もちろん私は見に行くが、さてその時、劇場内にジェイン・オースティンごと笑へる人間は、果たして何%くらゐゐるだらうか。いやそれ以前に、映画そのものがジェイン・オースティンを連想させるやうに作られてゐるだらうか。多少なりとも気になる点ではある(以上、遅れ馳せながらの書評である)。
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耳が痛い
トルストイの本のタイトルは有名でも読んだことのある人は少ないでしょうね。かくいう私も、アンナカレーニナの英語のダイジェスト版を読んだだけです。えらく長い原作もたった100ページです(笑)
きじねこ 2010/05/10(Mon)22:43:56 編集
Re:耳が痛い
英語で100ページですか?
ペンギン・クラシックスの「アンナ・カレーニナ」(Rosemary Edmonds の訳がいちばんいいと思ひます。Aylmer Maude は下手だと思ふ)が(あの小さい活字で)870ページほどありますので、そのおよそ一割ですね(笑)。

まあ日本語訳でも、「戦争と平和」なんかを読破するのはよほどの暇人でせうね(爆)。
【2010/05/11 01:55】
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自己紹介:
Koichi NOMi と申します
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フランスの写真家
ギイ・ブルダンが大好きです
(Guy Bourdin, 1928-1991)
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明快な細部と曖昧な物語性
大胆な構図と緻密な状況設定
そして色
どこをとつても素晴しい!

私も
どうせ写真を撮るなら
彼のやうな作品が撮りたいな
とは思ふのですが
ちよつと道のりは遠いかな
(苦笑)

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